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大阪地方裁判所 昭和59年(タ)215号 判決

原告

X

右訴訟代理人

高田勇

井原紀昭

被告

Y

主文一 昭和五八年六月二七日東大阪市長に対する届出によつてなされた原告と被告との婚姻は無効であることを確認する。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

三 本件につき被告のため控訴の附加期間を一〇〇日と定める。

事実

第一  原告の求めた裁判

主文第一項及び第二項と同旨

第二  原告の請求原因

一  被告は韓国に国籍を有する外国人であり、原告は日本国籍を有する男性である。

二  被告は昭和五八年六月初め頃、原告に対し、日本人男性の配偶者となることによつて長期在留の資格を得るため、虚偽の婚姻をなすよう依頼した。

三  原告は当時経済的に窮していたため、偽装結婚の報酬を得んがため右依頼に応じた。

四  そこで原告と被告は、真実は婚姻の意思を有していなかつたにも拘らず、前記二の目的のために昭和五八年六月二七日、大阪府東大阪市長に対し虚偽の婚姻届を提出した。

よつて、本件婚姻は原被告双方の婚姻意思を欠く無効のものであるから、その無効確認を求める。

第三  被告の不出頭〈省略〉

第四  証拠〈省略〉

理由一まず、本件につき、裁判管轄権の有無を検討する。

婚姻無効事件の国際裁判管轄権を決するについては被告の住所が我国にあることを原則とすべきであるが、かかる原則によることが原告にとつて不当な結果を招来し国際私法生活における正義公平の理念に副わない場合には、原告の住所が我国にある以上、被告の住所が我国になくても、例外的に管轄権を肯定するのが相当である(外国人間の離婚訴訟の国際的裁判管轄権に関する、最高裁判所昭和三九年三月二五日大法廷判決、民集一八巻三号四八六頁参照)。

そこで本件について検討するに、〈証拠〉によれば、原告は日本人で我国に住所を有する者であるが、被告は韓国国籍を有していることが認められ、かつ、被告は昭和五九年七月九日に韓国へ送還された後、その所在が不明となつていることが当裁判所に顕著であるところ、このように被告の所在が不明である場合に裁判管轄権が我国にないものとすれば、原告の訴提起は著しく困難となり、これを断念せしめるに至る事態も想起され、その結果原告の法的救済の途が事実上閉ざされる結果ともなりかねないものであるから、被告が所在不明の場合には、国際私法生活における正義公平の観点から、例外的に、原告の住所地国である我国に裁判管轄権があると認めるのが相当である。二そこで本案につき検討を加えるに、〈証拠〉によれば、請求原因事実をすべて認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠は存在しない。三然して、本件では原告が日本国籍を、被告が韓国国籍を有するところから、婚姻成立の要件は法例一三条一項により原告については我国法に、被告については韓国法に準拠することになるところ、前記認定の事実によれば、本件婚姻については、原、被告のいずれもが真実婚姻をする意思を有しなかつたというのであり、そうであれば、原告については我民法七四二条一号により、被告については韓国民法八一五条一号により、いずれも婚姻は無効というべきである。

四以上の次第であるから、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、附加期間につき同法一五八条二項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(丹宗朝子 松本哲泓 高原正良)

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